熱暴走

 少し冷たい手。
 それに時折ひどくビクリとすることがあって。
 一瞬後、ああ、この人がまた、俺に触れたんだなぁ、と、そう感じる。

「っ……」
苦しい。
 ただ静かに重なったはずの唇が、吸い付くように離れない。離してくれない。
 流石に息苦しくなって、顔をちょっとずらす。
「っは……も、いい加減にしてくださいよ」
体を引いて逃げると、すかさず頬に手が伸びる。やっぱり、少し冷たい。首の後ろ辺りが、僅かにぞくりとする。
「クス……そんなに嫌がることは無いだろう」
残念そうな表情を作るこの人に、いつも騙される。
 気を抜いたら、負けだ。
 相手はあの、ギース・ハワード。
 ただ、書類を渡せば済むはずだったお使いが、翌朝までデスクに戻れなくなる。
「そんな顔したってだめですよ。この前も俺は翌日徹夜だったんですから」
あんたのせいで、俺の仕事が手詰まりになるんだ。そう言って、身を捩る。
「つれないな」
薄く笑っているような、いつもの顔。あぁでも、少しだけ……。いつもより、意地の悪い顔をしている。……ような気が、した。
「あ……」
身に危険を感じた。
 しまった。
 この人がこんな顔をするときは、
「やめっ……!」
何か、思いついたときだ。
 とびっきりの、悪戯を。
 片手で俺の両腕を制したまま、空いたもう片方の手でバンダナを外される。小器用に口を使って結び目をほぐすと、今度はそれを俺の手首に回した。
「くっ」
まるで抵抗なんかできないまま、俺の両腕は見事に、後ろ手に縛り上げられてしまった。
「……あんたな……」
半分呆れたように睨みつける俺を、あの顔が覗き込む。さっきより、数段意地の悪い顔をしている。
「このまま、押し倒すのは至極簡単なんだが……それでは面白くないな」
 危険な予感が倍増する。

 ギースはつと俺から離れると、ベッド脇のサイドテーブルから、何かを取り上げた。
 ブランデーのビン。寝酒代わりに、時折飲んでいるものだ。ギースは琥珀色の中身をグラスに注ぐと、それを持ったまま俺に近づいた。
「少し、気分を楽にさせてやろうか」
そう言って、自分でグラスを空けた。
 流れるように俺の顎を取り、素早い動作で上を向かせて唇を塞ぐ。
「んぅ、うっ……」
口の中に何かが流れ込んでくるのを感じた。
 驚いて体を引くが、今度は後頭部を強く掴まれ、顔を引き寄せられる。唇の暖かい感触と、少しぬるめの酒の温度が、気持ち良いのか悪いのか……。
 受け切れなかった液体が、数滴、口の端から零れた。
 口の中がピリピリする。強い酒は少量でも喉に引っかかる。でも、ギースは唇を離そうとしない。息が、苦しい。
「ん、くっ」
喉を鳴らして何とか口の中のものを飲み干すと、確かめるようにゆっくり、唇が離れた。
「っ、ゴホッ」
一度だけむせこんで、肩で口の端を拭う。
「ブランデーは、人肌が一番だろう」
「一体何がしたいんです」
ギースの言葉を遮るように口を開いた。
 こんな少量の酒で、いくらなんだって酔ったりしない。ギースの狙いが掴めないまま、俺は再び彼を睨み上げた。
「アルコールは、どこから吸収されるか知っているか?」
何の脈絡もない、問い。
「な、何言って……」
「通常飲食物は、胃で消化されたのち、小腸で吸収が始まる。腸壁から、養分が毛細血管へ送られる」
 変だ。
 胃が熱い。
「だが、アルコールは胃から血管へ吸収される。酒が人体に対して即効性を持つのは、それがゆえんだ」
 酒のせいじゃない。
「では、アルコールに溶かし込んだものは、どこで吸収されるのだろうな」
「な、にを……入れやがった?」
 ただの酒じゃない。
 絶対に、ヤバイ。
「たまには、我を忘れてみせろ」

▽

 身体がじわじわ熱くなってくるのが判る。
 汗をかくような、いやな熱さではない。顔が火照って、動悸が激しい。
「早いな。通常、服用の効果は30分を過ぎてから、とのことだったが」
 身体が反応を見せたのが判ったのか、ギースはやや満足そうにベッドへ腰をかける。
 俺は立ったまま、恐ろしいほど熱くなる自分の身体がどうなるのか、まだ完全には予測できずにいた。

「たとえば、だが?」
ギースが座ったまま、口を開く。
「今お前に触れるとどうなるだろうな」
「?」
「試してみるか? お前の顎を取って……口を塞ぎ……」
 鼓動が早まった。身体の一部が、異常な熱を持ったのを感じる。
「首に舌を這わせ、耳を……」
「よ…せっ…」
ギースの声を、制した。これ以上聞いていられない。
 判った。
 判ったけど……。
 もう、立っていられない。
「クッ……反応が良いな」
「く、そッ」
身体が徐々に前屈みになる。膝を折って、そのまま腰を落とす。ちょっと動いただけでも
「くっ…くぅ…」
熱がまた上がった。
「効能的には、全身の毛細血管を拡張させ、血行を良好にし、特に…」
「最悪だな、あんた」
「性的興奮を高めるのに、効果あり、とのことだが」
俺の悪態には遮られずに、単調に、言葉を紡ぐ。
 ついとまた、サイドテーブルのブランデーをグラスに注ぎ、
「減らず口は相変わらずだな」
そういって、頭から、俺に酒をかけた。
 量はそう多くない。が、頭皮を伝って落ちてくる酒の雫が、肌を指でなぞられているようで。ぞくり、ぞくりと俺を刺激する。
 必死で雫を振り落とそうと、幾度か頭を振る。
「勿体無いことをするな。高い酒だ。少しは味わえ」
そんな俺の動きを楽しむように、ギースはベッドに座ったまま。
「ちっ、く…」
 後ろ手に縛られているから、体勢はうまく変えられない。丁度ジャパニーズ・サムライ・フィルムで、罪人が裁判受けるときの、あんな格好。
「…たら、…いいだろ…」
もうこうなってはお手上げで。俺は早いところ楽になるのを期待するしかなかった。けど…
「フ…散々嫌がっておいて、ねだることも満足にできんとはな」
「くっ」
淡い期待は、予定通り簡単に裏切られて
「構わんのだぞ? 私はこの状態でも十分楽しんでいるのだし」
ギースはさらに俺を煽る。
 これじゃぁ、まるで…。
 俺だけが淫乱みてぇじゃねえか。
 でも、たまらなく、身体が欲し始めている。
 腰が僅かに動き始めると、もう、止められない。
「随分物欲しそうだな」
解ってて、この人は
「どうする?」
わざとらしく、俺に問う。
 服が体に擦れる感触だけでも、頭がおかしくなりそうだ。
 どうしたら、楽になれるだろうか…。

「…てください…ねが…します…」
正直何を言ったのか、自分でも良くわからなかったけど。搾り出すように、懇願した。

 ギースはじっと俺を見つめて、それからゆっくりと、口を開いた。
「ふん、いいだろう。そのまま、こちらへ来い……」
 ひくつく体を必死で制御して、這いずる様にギースに近づく。
 息がかなり荒くなっていて、肩と背中が一緒に上下する。呼吸というより、既にそれは喘ぎと化していて。吐息ではない、「声」が、口から飛び出ている。
 俺が手の届く範囲まで近づくと、ギースはやおら手を伸ばして、俺のネクタイを掴んだ。さっきの酒で濡れてしまったからか、結び目が硬い。ちょっと強引に、だがスムーズに、ネクタイはその輪を解かれた。
「んっ」
解いたネクタイはそのままに、襟を少し開き、ワイシャツと首の間に手を滑り込まれる。
 空いたもう片方の手は、シャツのボタンを外しにかかって。
 その動作は、一転、至極ゆっくりと。
 こんなもの、いつもならとっくに脱がしているのに。
 焦らして、いるんだ…。
 判っている。
 でも、どうにもできない。
 ワイシャツがスラックスに押し込まれている境目で、ギースの手が止まる。早く、このもどかしさを脱却したくて、俺は膝で立ち上がり、ギースが作業をしやすい体勢を作った。
 俺の両手はまだ縛られたままだから、完全にシャツを脱がせることはできない。前をはだけただけの状態で、今度はスラックスのベルトにギースの手が伸びる。
 カチャ。
 金属音。
 この音を、ここまで淫靡な音だと感じたのは、これが初めてだ。
 早く。
 早くこの熱を、解放して、欲しい……。
 祈るような気持ちで、俺はギースの手を、待った。

▽

 ベルトが緩められ、スラックスのボタンを外される。ふと気づくと膝で立ち上がったせいか、ギースの顔が近い。
「あ…」
ギースと目が、合った。
 ふと彼の動きが止まる。
 ワイシャツのはだけたところから手を滑らせ、俺の腰を引き寄せた。そのまま首筋に唇が当たる。
「んっ」
乾きかけたブランデーを、唇で拭うように。そのまま顎に、頬に、額に、唇が移っていく。敢えて肉欲から一歩離れた動きをされることで、焦らされている気もする。けど、心地よい。暴走しかけた思考が、少し、落ち着いた気がした。
「あ、はっ」
唐突に耳を噛まれた。わずかに彼の吐息が触れ、全身の毛が逆立つような感覚を憶える。油断していたせいもあって、効果は相当なものだった。
「ふっ、ぅん…」
しがみ付く代わりにギースの肩にもたれ掛かる。顔を押し付けたまま、自分の背中がびくりと何度も跳ねるのを感じた。
 立っていられない。腰を落としたい。でも……。
 まだ暫く、こうして居たい。
 首筋で感じる、ギースの「匂い」に、触れられるよりも、俺は興奮して。
 思わず、彼のうなじに吸いついた。
 露出した肌の部分に唇を押し付けて、着いたり離れたりしながら。
「はぁっ、はぁっ…あっ」
 いつのまにか腰を引き寄せられるというより、両手で抱えられるような体制になっていたことに気づく。掌で、あばらを少し圧迫されると、それだけで全身が反応した。
「っ…くぅ…くっ……」
たまらず、ギースの肩に顔をうずめ、今度は服の上から彼の肩を噛む。声と、感覚を必死に押し込めるように。

 ふっと、身体が引き離される感触。ガクリと腰が落ち、ギースの手が身体から離れたのに気づく。
 今度は俺の頬を両手で抱えるようにして、正面から目を合わせてきた。
 真っ青な瞳の色が、吸い込まれるようで。それでいてはっきりと、俺の視覚に飛び込んでくる。
 その眼を、見つめながら。
 ゆっくりと唇に当てられた、彼の親指を
「は…」
わずかに口を開いて、迎えた。
 舌先で、恐る恐る指に触れる。幾度か小さく触れた後、さらに奥まで指を招こうとすると、それはすっと唇から離れて
「あ、ふ……」
今度は中指が宛がわれた。
 親指と同じように、舌先で少し触れて。口を少し開けながら誘うと、今度は離れることなく彼の指が俺の中に入ってくるのを感じた。
 格闘家にしては、細くて長い指。ともすると、俺なんかより華奢だ。以前に聞いた話では、早くに気の使い方を学んでしまったから、だと。
 口中に唾液を溢れさせるように満たして、彼の指を濡らす。滑るように出し入れされるそれは、時折ゆっくりと折れて。手首が返れば、それにあわせて舌が絡む。
 そのうち、指の数が増えた。俺はもう、がむしゃらにむしゃぶりつくように、彼の指に応じる。
 指でも。
 指だけでも良い。
 また、ギースと目が合った。
 さっきと同じ、青い瞳。心なしか、満足げな、俺を見つめる瞳。
 既に俺は、この人に、犯されているのだと感じた。

 指がゆっくりと口から引き抜かれる。唾液が僅かに糸を引いた。
 急に口の中から彼が出ていってしまったので、気持ち寂しげな顔をしたかも知れない。
 気がつくと、ギースの空いていた手が、俺の首に回されている。少し引き寄せられるように力が入り、視線が彼の身体へ落ちる。
「…っ…」
 いつのまにか、ギースが自ら前を開けて、用意を済ませていた。
 俺は引き寄せられるより早く、身体を傾けて、首を伸ばし、彼にすがりつくように、口を開いた。
「ん、ふっ……」
 唾液がこぼれるのも、苦しいのも気にならない。餓えた子供が食事を与えられたかのように、一気に彼を迎え入れる。
 そのまま首を使って、根元から一番先まで、彼自身を刺激する。
 吐息と、唾液の掻き混ざる音が、たまらなく淫らで。
 時折髪を梳くように撫でられる指に、また俺自身が高まって。
 両腕が不自由なのがもどかしい。
 この手が自由なら。
 自由なら……。
 自分を刺激できないのがはがゆくて、代わりにギースを責めるように、動きを少しずつ激しくする。
 熱いのは、俺の唇なのか、この人なのか。
 いや、もう、どうでもいいのかもしれない……。
「ぷはっ…っ…」
 予測より大きな反応が口中で広がったために、むせ込んで顔を引くと、それに併せて、ギースが一寸腰を引く。
 一瞬後。
「っあ……」
口と頬に、暖かい感触が飛んだ。
 ちょっとして、それが何なのか気づいて。
 普段そういうことをする人じゃないだけに、少し、驚いたけれど。
 俺は、彼の、あの瞳を見ながら、
「んっ…く…」
喉に流れ込んだ分を、味わうようにゆっくりと飲み込んでみせた

▽

 俺の頬の飛沫ををギースの親指がゆっくりと拭う。ふき取られたそれを舐めとるように、彼の指を追う。
「……できるか?」
囁かれた言葉に、ゆっくりと頷いて。
 ギースが俺の手首に腕を回す。
 戒めを解かれて。
 俺は自由になった両手で、ゆっくりとスラックスを脱いだ。
 自分で――。
 ギースは、そう、言った。
 その彼は、すっかり体勢を元に戻して、さっきみたいに腰を落ち着けたまま、何事も無かったかのように、俺を見ている。
 俺のほうは、今までの行為が全部、身体に蓄積されていて、行き着けない感覚が体中を駆け巡っている。
 敵わない。
 今ならきっと、何をしろといわれても。
 首を縦に振ることしかできない。

 自身をようやく解放できはしたが、体内の熱は上がる一方で。このままだと、すぐにでも限界を超えてしまいそうだ。
「う…っく」
恐る恐る掴むと、驚くほど熱い。
 まずい。
 動かしたら……。
 すがるような気持ちでギースを見ると、正面から俺を見据えて
「お前のタイミングで構わん。…ただし…」
その時は、と言葉を繋ぎ、
「私に申告をしろ」
条件が付加された。
 暴走しきった感覚を、少し落ち着けるように、ゆっくりと手を動かし始める。
 今、この人に触れられたなら、きっと一瞬で……。けど、自分の手はいつものリズムを守る。
 気持ちのいい昇り方、ベストな達し方。
 いつもと違うのは、目の前に、
「…ッ…はッ…はッ…」
この人の視線が在ること。
 俺のこんな姿を見て。
 いつもと変わらない表情で。
 どう感じて、いるのだろうか……?
 ギース。

 握り込んだ手が、暫し往復する。
 夜中に、思い出しそうだ。
 この人の目の前で……自分でする……様を。
「も、…もう…」
限界を超える。
 声がうまく出ない。
 でも、止められない。
「イ……キそ……あッ……」
 ギースは、相変わらず俺を見つめて。
 何も言ってはくれなかったけれど。
 無言で、小さく、頷いてみせた。
「…クッ…イ、クぅッ…」
 俺に許可だけ与えて、他の刺激を一切与えずに。
 なんて人だ。
 なんて、人だ…。
 果てながら、彼の顔を見つめる。
 そのまま俺は、身体を折って、顔を地に付けた。
 心臓がすごい勢いで脈を打っている。
 この距離でも、音が聞こえてしまうんじゃないか。
 肩で息をしながら、そのまま横倒しになった。
 掌に生暖かい感触があったのが判ったけれど、身体は動かない。
 なのに、未だに、熱い。
「クス…良い顔を、するようになったな…」
 濡れてしまった手をとられて、反射的に腕を引っ込める。
「…めですよ……れるから…」
声も掠れてしまっている。
 ギースはまた、薄く笑いながら、俺の身体を抱えた。
 されるがまま、俺は、ベッドの上に横たえられて。
「んっ…」
ギースの唇が重なった。

▽

 ギースの首に手を回して、顔を引き寄せる。
 強く。
 離したくない。
 身体がもう、彼の総てを欲している。
「どうした」
間近で、俺に引き寄せられたまま、唇だけ離したギースが俺の顔を覗き込む。
 わざと、なのかな…?
 解ってて言ってるなら、無理にでも拗ねてしまいたいところだけど。
 もう一度唇を重ねた。
 ギースが俺の両腕を掴んでベッドに押さえつける。
「ん…」
唇は重ねたまま。
「んっ…んっ…」
急にギースの手が片方、脚に伸びた。
 滑るように脚を上ってくる手に、身体が反応する。それでも、唇は吸い付くように離れない。
「んっ…はぁッ…」
 ちゅ、という高い音とともに、唇が離れた。追いかけるように、俺は首を伸ばす。が、
「やっ…!」
身体が跳ねた。
 奥に、ギースの指が触れた。
 全身の筋肉が緊張する。
 暫く、確かめるようになぞられた後、ふっと身体が一度離れて、また、指が触れる。
「っつめた…」
ひやりとした感触に思わず声が出る。
 これつけられると、気持ち悪いんだよな……。
 まぁ、身体ん中に、受け入れるためのシステムが無いんだから、しょうがないんだけど。
「あ、はっ…」
なぞっていた指に、少し力が入る。
 入り口をほぐすように。指の先だけをつかって。
 丁寧な仕草。
 俺は身体が逃げてしまうのを避けて、ギースにしがみ付いた。
 ふっと身体が引き起こされる。俺はしがみ付いたまま、ひざをつく格好になって。
「ん、くっ」
指が少し奥まで入った。
 入り口を広げるような動きをされる。
「は、うっ」
ゆっくりだけれど、時折、くっ、くっ、と内壁を刺激されて、背中の辺りがざわりとする。
 自然に身体が前に傾いて、寄りかかったままの俺は、そのままギースを押し倒すような格好になってしまった。
 指は離れない。
 身体も離れない。
 唇を寄せて。
 びりびりと痺れるような感覚の中、俺の唇は頬を伝い、うなじへ落ちる。
 噛み付くように吸い付いて、まだ着たままの、彼の服を脱がしにかかる。
 破いてしまいたい。
 もどかしい。
「ふっ…ん…」
 ギースの指が離れた。
 今度はギースの両腕を、俺が押さえつけるような格好で。
 こんな場面、なんかの映画であったかも…。
 はだけさせた胸に舌を這わせる。あまり感じないのは知っているけど、広いこの人の胸は好きで。幾度か吸い付いた後、顔を離した。
 このまま、したい。
 大丈夫だろうか。
 目線を上げてギースの顔を見ると、薄く笑って。
 本当に、いつもと変わりがない。
 ちょっと悔しくなって、ギースの上に腰を下ろした。
 さかった犬みたいに、数回腰を動かして、ギースとの接点を感じる。
 そのうち、自分で手を添えて、
「くっ…」
ギースを中に導いた。
「ぅく、いっ…つぅ…」
ちょっと悲痛な声が出た。
 自分の体重で、
「あ、は…あっ」
ギースを、飲み込んでいく。
「くぅッ!…う…」
 奥まで。
 もっと奥まで。
 痛い。
 熱い。
 根元まで深く咥えこむと、入り口のピリピリした痛みとは別に、肩から走る痺れと、腰を襲う疼痛。
 慣れるまで、もう少し。
 もう少し、待って。
 彼の胸に置いた俺の手に、ギースが自分の手を伸ばす。両の手がそれぞれの指と絡んで、ギースと手をつないだ格好になる。
 俺の腰がゆっくり動きだした。
 自然に。
 ギースに腕を支えられるような状態で、少しずつ、腰を上下させる。
「うっ、うっ」
 両手が絡んだままだから、お互いに手は不自由だけれど、繋がった状態なのが妙に嬉しい気がして。
「んっ、んっんっ」
俺の上下動が少し激しくなる。
 まだ手は離れない。
 そろそろ、
「はっ、あはっ」
自分も刺激したい。
「いっ…!」
ギースが動いた。上体を起こして、そのまま一気に俺と向き合うような格好になった。
 手がするりと離れて、俺の腰をとる。
 そのままゆっくりと、今度は俺を押し倒した。
 俺は自由になった腕を片方ベッドにおき、もう片方は、ギースの肩をしっかりと掴んで、体重を支える。背中が付くと、後はそのまま体重を預けて。
 ギースが俺の脚を持ち上げた。
「ひぃっ!」
今度はギース本人によって、自身が俺に押し込まれる。
 自分でするより何倍も強い刺激。
「やっ、あっ、あっ」
 激しくて。
 熱くて。
 気持ちが、良くて。
 気を失いそうだ。
 たまらない。
「ギース…」
必死で、名前を呼んだ。
「!…っ…ひっ…あっ…あっ…!」
 彼は無言で動きを激しくする。
 あ…?
「あっ…んっ…ま、…って…」
 律動は止まない。
「いやっ…」
 う、そだろ…?
「や、め…て…」
 まずい。このままじゃ。
「お、ねがい、です、からっ」
 何にも、してないのに…。
「…っちまう、…から…!」
 いやだ。
 このままじゃ、中途半端で。
 このまま、は、イヤだ。
「ぅあ!?」
一瞬、自分に強い刺激があって、思わず大きな声が出た。
 ギースが、俺を、つかんで…
「くぅ…っく…」
流れを止めている。
「どうして、ほしい?」
ギースの声。
 身体の動きはそのまま。
「あ、はぁッ…んっ」
「どうして、欲しかったんだ?」
呪文のように、俺の意識を侵す言葉に、
「も…っと……」
ギースの望みどおり、俺は我を忘れて。
「…んたの…手で…」
 断片的な、言葉で、
「ちゃんと、……い…きた…」
 けれど、ちゃんと、
「あっ、あっ、ィ…クッ、…キたぃ…」
 欲しいものを。
「かせて…」
 欲しい、と。
 ギースの手が動き出す。
 俺も、ギリギリまで我慢をして。
 そして、
「ッぁああッ…ギース…さ、まぁッ…!」
欲望を、解放した。

 普段より、二倍か三倍くらいの、衝撃的な快感、だったような、気がした。
 腰が、立たない。
 まったく力が入らない。
 全身が、余韻で、いまだにビクビクと小刻みに痙攣している。
 あの後、もう一回、今度は後ろから…して…。
 ゲンキだよな、…ったく。
 この人は。
「大丈夫か?」
くつくつと笑いながら俺に手を伸ばす。
 大丈夫、なワケない。
「…んんっ…もう…」
首筋に手が当たると、ビクンと身体が反応する。それを押さえ込む気力ももうなくなって、ちょっとだけ、言葉で抵抗する。
「喉が渇いているだろう」
いわれてみると、そう、かなりのどが渇いている。まるで、風邪薬で熱を下げた翌日のようだ。
 唇が重なった。
 温度の低いものが流れてくる。
 そのまま、コクンと飲み込んだ。
 構えることも抵抗もしなかったので、ちょっと意外だったのか、大丈夫か、なんて、もう一度聞かれた。
 だから、大丈夫なワケない。
「面白いな…」
「え…?」
「いや、随分と、面白いものを、見たり聴いたりした、ような…」
 そういえば、結構、いろんなことを、言ったりしたり、したような…。
「っ…」
つと、指で肌をなぞられて、また、びくりと反応する。
 暖かい手。
「あれっ?」
 記憶の底から、ギースの言葉が浮かび上がる。
  …全身の、毛細血管を…
  …血行を…
「…もしかして、飲んじゃって…ました?…」
ギースはその問いに、薄く笑って、
「喉を通ったのは少量だが…まぁ、大分濃縮したものだったからな」
 ……確かに、少量だったんだろうけど……。
「くす」
思わず、俺は笑ってしまった。
 気づくと、ギースがベッドから降り、腰を上げようとしている。
「あ、…どちらへ…?」
「オフィスに、な。シャワーを浴びてからになるが…。お前、動けんだろう?」
自分が何をどんだけどうしたか、は、判っているみたいだ。
「明日は、残業をしなくてもいいようにしておいてやるから、…そうだな、動けるようになったら、私の部屋の掃除をしておけ」
そういって、また、俺の顔をなでる。
 そろそろ、余韻も冷めて、温かいこの指を、心地よいと感じ始めている。
「はい…」
小さく答えて。
 俺は、部屋を出ていくギースの背中を、ぼんやりと見送った。

-Fin.-

(1)

 まだ一部ですが。実はネタ提供を望んでいたり(笑)。

 ネタだけでもいいですし、続き書いていただいても。

 投稿はメール、フォームからも受け付けてます。<<クリック

 大っぴらにやってみたい方はBBSでも(笑)。

タイアップ>>[媚薬

(2)

 ガンガン行きましょう(笑)。皆様イロイロご要望ありがとう。次回もすんごいです。予定では。リクがバッチリ反映された人も、今のところ半分、とかって人もいらっしゃるとは思いますが、大丈夫。ナルベク反映させる形をアタクシ目指しておりますので(笑)。

 さぁて、後は私がどこまで壊れられるかにかかっているわよ~。

(3)

 や、やりすぎた…。やべぇ。なんか、これ一作で、いろんなことやり尽くす勢いなんですが。良いんでしょうか。

 ギー様がそんな…。という方もあろうかと思います。私もそう思います(苦笑)。私が欲望に負けているようです。

(4)

 えと、4場面目は一人ナントカというやつで。男の子だし、夜には一人で処理もするんだろうなァとかは思うですが。そんなわけで、「次回のおかず(いやん)になりそうな」って感じの思考も入れてみました。

 本当は、「和」にするか「強」にするか、すんごい悩んだんですが、両方書いてみた結果、今回は「和」テイストの方が面白いと思いまして。

 強制一人○○○は、また今度(!?)。

(5)

 くはー。

 微妙なやっちゃった感。

 なんだろう、このそこはかとない敗北感。

 くっそー、通しで見直して、もっと良くしよう。

 結局、断続的に書いていたので、全体のつながりで行くと結構おかしいところ多いんですよね。くくぅ。しっぱいしたなー。まとめて書くべきだったカモ。

 ビリちゃんの最後のギースさま、は、どうしようか、ちょいと悩みました。今回みたいな、お願い系のときは、そのほうが個人的に萌えただけなんですが。…ダメ?

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